2007年08月12日

和宮の左手首 その11

ひき続き

「〜若宮の死〜 有栖川宮が知ってしまった天皇の秘密」(文=出口禮子)
から

<心痛の有栖川宮を癒した伏見の恋>


 
 明治元年(1869)11月2日、錦旗節刀を奉還して京都へ凱旋。
 翌明治2年、東京遷都となり、熾仁も4月10日までに東京に下向するよう命ぜられるが、参内してこれを固辞する。その後、10月に太政官より厳しい通達があり、同年12月にやっと東京へ移住する。
 つまり、凱旋から丸1年、熾仁は東下を辞退したまま京都にいたわけであるが、その理由について『行実』は「史料欠如のため、今之を詳にするを得ず」としている。たしかに不可解な行動である。
 
 おそらく熾仁は、嘘をつき通すことにまったく慣れていなかったのだろう。事実、このころの熾仁の頬はこわばり、笑顔は消え……ひどく寡黙になったという。
 すべてを捨てて臣下に降り、和宮と暮らしたいと新政府に訴えても、冷たく拒まれる。その心すら和宮には届かなかった。戦に勝った喜びより、深く突き刺さって抜けないトゲがうずいてくる。
 
睦仁親王7歳(安政6年/1859)の春から、父・幟仁(たかひと)は書道の師範として仕えた。
 慶応3年5月28日からは熾仁が助教となり、践祚された15歳の明治天皇に月6度(4、5の日)書道を教えてきた。いったい彼らは睦仁親王を…!

 ある日、親王は伏見まで馬を走らせて、禁門の変に連座して閉門処分になったころに同志の公卿たちと折々忍んで会合した船宿に立ち寄ってみた。そこでは、なじみの主人が迎えてくれる。
 丹波から来たという主人の姪の上田よね(当時19歳)が、恥ずかしそうに茶菓を運んだ。ひなびた初々しさ、丹波なまりが心に沁みる。なぜか懐かしい。子供のころに耳元で聞いたような響きがする。疲れ果て、すさんだ熾仁の心に瑞々しさが戻ってくる……。
 熾仁の生母は家女房の通称可那(かな)、29歳で死別した。熾仁7歳のときのつらい思い出である。母の匂い、母のぬくもりを忘れかねて育った。京都若宮八幡宮の神主で、丹波守佐伯祐條の娘祐子、死ぬ直前には「亀岡」という局名であった。
 よねの放つ丹波の野の香りが、母と重なって魅き寄せる。己れにも脈打つ野の血がさわぐのだろうか。伏見への調馬はたびたびとなり、ときには泊まり込み、いつづけて愛をかわした。
 34歳の独身である。父も家臣も暗黙のうちに、熾仁の恋を見守っている。

「東上せよ」との太政官からの命令が来た。今度は背くことはできない。自分の命はどうなってもいいが、自分の力で守ることのできるものがあれば守らねばならぬ。
熾仁はあわただしい別れを告げた。

「わが恋は深山の奥の草なれや しげさまされど知る人ぞなき」

 熾仁の名と印と花押を記した短冊、白綸子(しろりんす)の小袖、目釘脇に菊の紋を刻した白木の短刀、巾着がよねの手に残された。

 明治2年(1869)11月1日、熾仁が東京へ去ってから、よねはつわりに気づいた。「有栖川のみ子は男なら殺される」−−そんな友らのささやきにおびえて、丹波の里へ逃げるように帰ってきた。
母・字能(うの)はすぐさまよねに婿を迎え(明治3年1月)、7か月児といつわってまるまるとした男児を産ませる。そして、熾仁親王の痕跡をくらまし、孫を安全地帯におくために、明治3年の出生を1年繰り下げて届けた。わが国初の壬申戸籍は明治5年2月1日施行だから、だれも宇能の計らいに気づくものはいなかった。
 この1年があったればこそ、有栖川のただ一粒の種が残った。北朝男子の種は、人知れずこの丹波の野に育つのだ。

 明治22年2月11日宮内省達第2号で皇族列次が定まる。
「皇位継承第一位有栖川宮熾仁親王」−−。

(続く)


posted by 悲しき秀才 at 03:52| Comment(3) | 和宮の左手首 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
正直ここで読むまで知らなかったけど本当にすごい話ですね。元々は団長のところから飛んできましたが読めて良かった。出口禮子さんという名前では本などは出していないんですね。ひき続きwktkでおまちしております。でも、無理せずにやってくださいね。
Posted by at 2007年08月12日 21:34
コメントありがとうございます。

>出口禮子さんという名前では本などは出していないんですね。

その辺についても追々・・・。
Posted by 悲しき秀才 at 2007年08月14日 03:32
出口禮子の次男(三男)です。皇女和宮は三人いました。禮子はもう高齢で、和宮の追跡は私が行状一応終わりました。和宮の推定される死と、熾仁親王と植田よねの出会いも、出口王仁三郎がいつ受胎したかのおおよその日も突き止められています。

Posted by GUCCI at 2014年05月01日 03:20
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